LCCは安い!は常識ではない
そもそもLCCとは何?
日本でLCC(ローコスト・キャリア・格安航空会社)が登場してから、まだ10年足らず。日本のLCCの歴史はまだまだ浅いと言えるでしょう。でも、知名度や人気、そして利用度において、その存在感は年々増しているといっても過言ではありません。人気急上昇の秘密はズバリ、安さ、にあります。私たちになじみが深いレガシー・キャリア(既存の大手航空会社)に比べ、LCCはびっくりするほど安価な運賃を実現しています。
大阪関西国際空港(KIX)と台北/台湾桃園国際空港(TPE)間をLCCとレガシー・キャリアで比較してみます。たとえば、海外格安航空券の比較ができる【HISでLCC(https://www.lcc.his-j.com/)】サイトで2016年4月20日に空席がある航空券で、2016年5月20日の片道航空券を確認してみました。
LCC最安値はピーチの直行便 で諸費用込み10,790円!レガシー・キャリア最安値チャイナエアライン直行便では諸費用込み17,340円 。LCCはレガシー・キャリアの37%OFF価格で飛べてしまうのです。
LCCがレガシー・キャリアより安い理由
それでは、どうしてレガシー・キャリアがなしえない低価格を、LCCでは実現できるのでしょうか。それにはいくつか理由があります。
1.使用機種を統一している
レガシー・キャリアではさまざまな種類の航空機を使用しています。一方、多くのLCCでは1種類に統一しています。航空機の免許は機種ごとに取得が義務づけられています。でも、機種を統一すればパイロットや整備士の育成にかける費用を抑えられます。さらに部品なども1機種用に絞ることができるため、こちらのコストも抑えることが可能です。
2.無料サービスをなるべく行わない
レガシー・キャリアを利用すれば機内食がいただけ、毛布や枕もレンタルできます。しかも無料で。でも、こうした無料サービスの実現には多くの客室乗務員が必要です。その分、コストもかかり、航空会社はそれを運賃に反映させなければなりません。LCCではレガシー・キャリアでは無料が当たり前だったサービスが有料のケースがほとんどです。機内食や飲み物も例外ではありません。毛布や枕のレンタルにもお金がかかります。有料化することで、サービス利用者が限定されます。結果、客室乗務員も少人数で済みますし、大幅なコストダウンが可能となります。
3.きびしい手荷物重量制限
チェックインの際に預ける手荷物も、LCCの低価格と大きく関連します。レガシー・キャリア国内線だと、だいたい20kgまでは無料で受託手荷物を預ける ことができます。いっぽう、LCCでは制限が事前受託手荷物の申請をした場合で10kgあるいは運賃タイプにより預ける荷物がすべて有料 というケースも珍しくありません。これは規定重量をオーバーする荷物に課金すれば、その分LCC会社の収入につながることを意味します。そして、乗客も荷物をなるべく軽めにしようとするため、飛行機全体の重量が軽くなりその分、燃料費も節約できるという効果もあります。
4.空港での滞在時間が短い
レガシー・キャリアに比べ、LCCは空港での滞在時間(駐機時間)が非常に短くなっています。たとえば関空から那覇にやってきたLCC機は、関空からの乗客を降ろすと、すぐに那覇からの乗客を乗せ、再び関空に向けて飛んでいきます。これは乗客を運べない時間=駐機時間をなるべく減らし、乗客を乗せている時間を増やす狙いがあります。時間を有効に使って運用の効率をアップしているのです。LCCは1航路1機で運用しているケースが多く、この運用効率を高めることで利益を出しています。乗客を多数乗せた運行回数が多くなる分、価格も低く設定できるのです。
5.予約はネットがメイン
レガシー・キャリアの航空券は、全国の都市や空港に置かれている航空会社の支店や窓口でも購入できます。ただし、これらの運営には当然、莫大な経費がかかります。それに対して、LCCではこのような支店や窓口が非常に少なくなっています。そして航空券の販売はインターネット予約がメイン。レガシー・キャリアのような対面式の販売方法は採られていません。その代わり、支店を設置する事務所費用や人件費をカットすることができ、低価格の実現に一役買っているのです。
6.メジャー空港の利用をできるだけ回避
東京から飛行機で旅に出る、と聞くと、ほとんどの人は羽田か成田を思い浮かべるでしょう。羽田や成田といった都心に近くアクセスも便利な空港は、空港着陸料が高くなっています。ところが、東京からやや離れた茨城や静岡富士山といった空港になると、それは低く抑えられています。LCCでは東京へのアクセスよりも低価格を重視して、羽田や成田を回避し、こうした空港を利用するケースがあります。例えば日本と台北を結ぶ「Vエア」も、首都圏では茨城空港を利用しています。
例えば2016/4/19にゴールデンウィークの真っただ中、関東から台北へ行く料金を調べてみました。2泊3日、1日目は午前中発で、3日目は昼前後帰ってくる計画です。結果は、以下の通り。一概には比較できないのですが、自宅や宿泊地が茨城空港に近い場合は選択肢として有力です。茨城空港は、成田や羽田に比べると着陸料が30%以上割安で、この差額が低運賃の実現に寄与しています。
LCC | |
---|---|
茨城空港発着 | 成田空港発着 |
Vエア 2016/05/03 12:10発ZV241 2016/05/03 14:35台北着 2016/05/05 07:00発ZV240 2016/05/05 11:10茨城着 62,070円 |
バニラエア 2016/05/03 09:05発JW101 2016/05/03 12:00台北着 2016/05/05 07:25発JW102 2016/05/05 11:40成田着 73,410円 |
レガシーキャリア | |
成田発・羽田空港帰着 | |
JAL 2016/05/03 11:15発JL805 2016/05/03 14:05台北着 2016/05/05 8:45発JL096 2016/05/05 12:45羽田着 104,890円 |
このほかにも、後述するように座席ピッチ(間隔)を狭くして席数を増やすといった工夫を凝らしていることで、LCCはレガシー・キャリアではなしえない低価格を実現しています。
LCCのデメリット
レガシー・キャリアもはるかに安いLCCですが、低価格を実現するための工夫が、かえって利用者にとってはデメリットに一転することもあります。ここではレガシー・キャリアではあり得ないLCCのデメリットをいくつかピックアップします。
1.空港が遠い、乗り場が遠い
LCCの利用空港は、羽田や成田といった誰もが知っている空港とは正反対の「マイナー空港」であることも多いので、出発前にこの空港がどこにあるのか、そこへのアクセスなどの情報収集をしっかり行っておきましょう。さらにメジャーな空港であっても安心できません。というのもLCCはレガシー・キャリアに比べて、搭乗口がかなり遠い場所にあることが多いからです。また、那覇空港のように空港に到着してから、さらにバスでLCC専用ターミナルに向かわなければならないということも珍しくありません。こうした状況を考えれば、LCC利用の場合は、早めに空港に到着しておくのがベターです。
2.遅延が多い
レガシー・キャリアに比べ、駐機時間が非常にタイトなLCCでは、天候の問題などでひとたび遅延が生じれば、その後の便も遅延します。同日内の遅延ならともかく、日をまたいでしまうような大幅遅延もあり得ます。LCC乗り継ぎを考える場合、このような遅延の可能性の高さも充分に念頭に置いて、余裕のあるスケジュールを組んでおくことが大切です。
3.手荷物が多いとかなりの追加料金を取られる
レガシー・キャリアに比べて、受託手荷物(預ける手荷物)の制限が厳しいLCCでは、制限重量の超過に神経を使います。航空会社により、および、運賃タイプにより異なりますが、事前に受託荷物の予約をした場合、10kg以上が有料と設定されています。会社によっては預ける荷物は全て有料としているところや、機内持ち込みの荷物にも重量制限を設けているところもあるので、予約時や出発前によく調べておくことが肝心です。さらに少しでも重量オーバーした場合、決して安くない超過料金を取られてしまい、「安いからLCCを選択したのに、手荷物の料金を加算したら、それほどお得感がなくなった」ということになりかねません。
4.機内サービスは有料
レガシー・キャリアでは無料の機内サービスのほとんどが有料と考えていいでしょう。機内食(ほとんど軽食)、飲み物、枕や毛布などのレンタルといったサービスにはお金がかかります。しかもフードやドリンクに関しては、陸上での価格に比べて割高設定となっていることが多いです。また、枕や毛布レンタルも用意されている数が多くないため、服装の調節やトラベルピローの持ち込みなど、出発前の準備は周到に行うことが必要です。
5.座席が狭い
一度のフライトでなるべく多くの乗客を乗せることで低価格を実現しているLCCでは、レガシー・キャリアに比べると非常にシート・ピッチ(前後の間隔)が狭くなっています。そのため、LCCでのフライトに慣れていない人は、かなり窮屈な思いを強いられることとなります。
6.制限事項が多い
LCCの航空券には制限事項が多いことも覚えておきましょう。例えば運賃タイプに寄りますが、最安値の設定となっている運賃タイプはキャンセル料が100%取られること。つまり予約を取り消すと、払い戻しには一切応じてもらえません。
また、LCCには欠航や遅延が多いことを念頭に予約しなければならないのですが、もしもそれが現実のものとなってしまった場合、どうなるでしょうか。レガシー・キャリアでは比較的簡単に行われる「他社便への振替」など、代替え策が取られる可能性が非常に低いです。また、欠航や遅延により、次に乗ろうとしていた他社便へ乗継ができないことも充分に起こりうるのですが、その乗継に対する補償は一切ありません。
7.マイレージが付かない
LCCではマイレージがたまりません。マイレージを集めている人にとっては、いくら低価格でもLCCは魅力のない航空会社でしかありません。
低価格を最大のメリットとしているLCCですが、安さばかりにとらわれていると、思わぬトラブルに巻き込まれてしまうケースも多いようです。また、預ける手荷物の重量によってはかなり高めの追加料金が発生し、思いのほか高くことも少なくありません。LCCを予約する際には、有料サービスや設備、そして利用空港へのアクセス、乗り継ぎの場合は充分余裕のあるスケジュールなど、あらゆるケースを想定しつつ、いくつかの航空会社を比較検討してから、がベターです。
本当にLCCはレガシー・キャリアよりも安いのか?
ここまで「LCCはレガシー・キャリアよりも安い」としてきました。そしてそれが「常識」となっています。ところが、レガシー・キャリアの格安航空券と比較してみると、常識は必ずしも100%正しくない点もあるようです。
ここでひとつの例を挙げてみます。 【HISでLCC(https://www.lcc.his-j.com/)】サイトで、2016年4月20日時点で5月のゴールデンウィーク中に空席がある便を探してみました。行先は、東京(成田)からシンガポール。現地で3日間終日観光ができる日程でLCCのジェットスターとレガシー・キャリアのANAとを比較してみました。価格には諸税・手数料などが含まれます。
往路 | |
---|---|
LCC | レガシーキャリア |
116,110円 | 96,740円 |
ジェットスタージャパン 東京(成田)発 GK 21便 2016/05/01(日) 08:45 2016/05/01 12:25香港着 2016/05/01 14:50香港発 2016/05/01(日) 18:40 シンガポール着 3K698便 |
全日空(ANA) 東京(成田)発 NH801便 2016/05/01(日) 18:05 直行便 2016/05/02(月) 00:15 シンガポール着 |
復路 | |
ジェットスタージャパン シンガポール発 3K 721便 2016/05/05(木) 07:00 2016/05/05 16:30関空着 2016/05/05 20:15 関空発 2016/05/05(木) 21:40 東京(成田)着 GK212便 |
全日空(ANA) シンガポール発 NH802便 2016/05/05(木) 06:00 直行便 2016/05/05(木) 14:10 東京(成田)着 |
このように、LCCのジェットスターよりも、レガシー・キャリアが安くなるというケースもあるのです。直前でしかもゴールデンウィーク中という人気の時期だったからかもしれませんが、「LCCは必ずレガシー・キャリアよりも大幅に安い」と決めつけるのではなく、上記のような格安航空券を比較できるサイトで一度チェックしてから、自分のニーズ(あくまでも価格重視・フライト時間の短さ・マイレージがたまるかどうか、など)にあった探し方が賢明です。
当ページは、2016年4月20日現在の内容です。